私たちは「ヒト」という姿をしていますが、その内部では数百兆ともいわれる膨大なミトコンドリアが、今この瞬間も働き続けています。
呼吸し、動き、考え、感情が揺れ、生命が営まれる背景には、細胞の奥底でATPというエネルギーをつくり続ける“小さな炉”があるのです。
そして最新の生物学や代謝学に触れるほど、こう思うようになる。
──人間とは、ミトコンドリアの集合体である。
生物進化の歴史を紐解けば、20億年前嫌気的生命と好気的生命が偶然の寄生・共生を経て、現在のヒト細胞が誕生したという視点があります。
もしそれが事実なら、私たちの「生命のあり方」は、ミトコンドリアの状態そのものに深く左右されているのは当然といえます。
本稿では、ミトコンドリアの視点から「生き方」を見つめ直すという視点です。
ミトコンドリアは“生命のOS”である
ミトコンドリアはATPをつくる装置というだけでなく、
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ストレス応答
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免疫
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炎症
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細胞死(アポトーシス)
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ホルモンの反応性
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神経系の調整
など、広い領域で機能しています。
つまり、身体的な元気、心理的な安定、環境への順応など、生命の基本機能はすべてミトコンドリアの“ご機嫌”に左右されるといえます。
だからこそ、ミトコンドリアが整う=生き方全体が整う。
ここから「ミトコンドリア視点で生きる」という新しい巨大な地図が見えてきます。
ミトコンドリアが多い臓器・細胞とは?
私たちヒトは「酸素を使って ATP を生み続ける生物」です。その中心にあるのがミトコンドリア。
では、どの臓器・細胞が最もミトコンドリアを必要としているのでしょうか?
結論から言うと、それは “常に活動し続け、エネルギー消費が激しい組織” です。
ミトコンドリアは「持久力」であり、「酸素を使う細胞のエンジン」です。
ミトコンドリア密度が多い臓器・細胞(概ね順位性)
1位:心筋細胞(心臓)
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心臓は一生止まらず動き続ける臓器
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ミトコンドリア密度は全細胞中トップクラス(30%超)
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酸素需要が極めて高く、数秒でも無酸素状態になると致命的
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心不全・虚血は“ATP不足”と考えると理解が早い
→ヒト生命の根本は「心筋のミトコンドリアが燃え続けること」に支えられている。
2位:神経細胞(脳)
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脳は体重の2%で、全エネルギーの20%以上を消費
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とくにシナプス活動は「ATPの塊」
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脳は無酸素状態に極端に弱い(数分で細胞死)
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ミトコンドリアの機能低下は
・うつ病
・認知症
・脳疲労
・自律神経の乱れ
に直結する。
→脳は“酸素依存度が最も高い臓器”として理解すると良い。
3位:赤筋線維(遅筋)
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長距離ランナーが発達させる筋肉
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色が赤いのはミオグロビン+ミトコンドリアが多いから
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酸素をたっぷり使い、持久的に活動できる筋肉
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逆に白筋線維(速筋)はミトコンドリアが少なく、無酸素系に依存
→「持久力=ミトコンドリア量」
「回復の早さ=ミトコンドリアの質」とも言える。
4位:肝臓(代謝の中心)→肝臓は「見えないが最も働いている筋肉」のような存在。
5位:腎臓(電解質・老廃物の濾過装置)特に近位尿細管細胞はミトコンドリア密度が非常に高い
脱水、低酸素、糖尿病で障害を受けやすいのはこのため
6位:内耳(蝸牛の有毛細胞)音を電気信号に変換する作業はとてもエネルギーを使う
ミトコンドリア異常は耳鳴り・難聴とも関わる
また卵胞細胞も精子と比較して多いといわれています。精子は極めてすくない。
マグロ・・・回遊魚・赤筋・・長く泳ぎ続ける
ヒラメ・・・定置魚・白筋・・静から瞬発的に泳ぐ
神経細胞(脳)にはミトコンドリアが多いため常に酸素が必要、脳卒中のダメージを想像すればわかります
ミトコンドリアを“活性化するもの
■ 運動:身体のエンジンを増やす
軽い有酸素運動、HIIT、筋トレは、ミトコンドリア新生を引き起こす。
“動けば増える”という、極めてシンプルで普遍的な原則だ。
■ 断食・オートファジー:細胞のリセット
空腹時間は古いミトコンドリアを分解し、新しいものへと入れ替える。
細胞が「掃除モード」に入る時間をつくることは、代謝の未来投資でもある。
■ 呼吸:酸素の届け方を最適化
深い横隔膜呼吸、鼻呼吸、ゆっくりとした呼吸は酸素の利用効率を上げ、
副交感神経(腹側迷走神経)を整える。
自然な呼吸は、自然な代謝を取り戻す。
■ 微量栄養素:ミトコンドリアの“部品”
ビタミンB群、鉄、マグネシウム、コエンザイムQ10、オメガ3脂肪酸などは、
電子伝達系の必須素材。
これらが足りないとATPは作れない。
■ 温冷刺激・自然刺激:ホルミーシス
軽いストレスは、ミトコンドリアにとって“鍛錬”となる。
サウナや冷水浴、自然への暴露は、生命力を底上げする。
ミトコンドリアを“不活性化するもの
■ 運動不足:現代の“代謝危機”
長時間座位、歩かない生活、酸素不足。
何もしなければエンジンは錆びていく。
■ 過食・糖質過剰
エネルギーの渋滞が起こり、電子伝達系は逆流し、活性酸素が増える。
これはミトコンドリアへの“物理的ダメージ”につながる。
■ 睡眠不足
修復・再生が行われないまま翌日に突入する。
生命のリズムが狂えば、代謝も必ず狂う。
■ 慢性ストレス
コルチゾールはミトコンドリアDNAを傷つけ、
意欲低下、疲れやすさ、抑うつ傾向を引き起こす。
■ 炎症(腸内環境の悪化を含む)
腸の炎症は全身の炎症。
ミトコンドリアは炎症性サイトカインに強く反応するため、
慢性的な炎症は代謝を落とし、倦怠感や老化に直結する。
ミトコンドリア視点から見える“生き方の原則
ここまで整理してくると、ひとつの結論が見えてきます。
生命は、ミトコンドリアにとって都合の良い生き方をすると整う。
生命は、ミトコンドリアにとって都合の悪い生き方をすると乱れる。
シンプルだが、普遍的で強い原則であるといえます。
もし人生が疲れていると感じるとき、
もし心が不調を訴えるとき、
もし老化が早く進んでいるように感じるとき、
もし集中力が落ちていると感じるとき。
その背景には、必ずミトコンドリアの状態が映し出されている。
身体、心、環境。
この3つを統合して、最終的なエネルギー産生の量を決めるのはミトコンドリアです。
だから、ミトコンドリア視点はこう言う。
あなたの生き方そのものが、私の働きやすさになる。
あなたの選択が、私のエネルギーの質を決める。
私(ミトコンドリア)は、あなたの生命そのものなのだ。
ミトコンドリア視点で生きるということ
ミトコンドリア視点で生きるとは、
“生命の根源に寄り添う生き方”のことである。
私たちが自然な呼吸をし、
よく眠り、
ほどよく動き、
適度な刺激を受け、
安全とつながりを感じ、
心地よく生きるとき──
その生き方はミトコンドリアの視点から見ても美しい。
ミトコンドリアを整えることは、
人生の質を整えることに等しい。
とまとめることができます。
また。ノンストップ24時間フル稼働 × 酸素依存 × 持久戦がヒト(身体)と考えればミトコンドリアが人生ともいえるでしょう。
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参考文献 |
Author:行方悟郎 Goro NAMEKATA
当院には、自律神経の乱れ、抑うつ、パニック、不安、不眠、慢性的な疲労感、頭痛、首の痛みなど――
心と身体のバランスを崩し、仕事や学校を休みがちになったり、何とか日常を続けながらも、長いあいだ不調を抱えている方が多く来院されています。
では、その「不調の原因」とは何でしょうか?ストレスでしょうか?仕事、家庭、人間関係…あるいは姿勢や生活習慣、慢性的な疲労や過緊張…? ――答えは一つのようで、一つではありません。
ご自身で「わかっている」と感じるときもあれば、「何が原因かわからないけれど、ただしんどい」ということも自然なことです。
当院では、鍼灸・整体施術、心理カウンセリング、ピラティスなどを通して、身体との対話、心との対話、そして人との対話を大切にしながら、少しずつ「本来の自分」に立ち返るお手伝いをしています。
私たちが信じていること――それは、身体は本来“治りたがっている”存在であるということ。
自然のリズムと心身の声に耳を傾け、あなた自身の内に眠る“治る力”を、ここで一緒に呼び覚ましていきましょう。
鍼灸師・認定心理士・ピラティスインストラクターとして、身体・心・自然の調和を探求し続けています。2013年より当地にて鍼灸院を開業。自律神経の不調やアスリートの身体ケアに携わる中で、対話と身体感覚の重要性を実感し、心理学やピラティスも統合。
現在はポリヴェーガル理論を軸にした施術と、「動く瞑想」としてのワンネスピラティスを実践中。すべての人が“自らの治癒力”に気づき、自分自身とつながる場を提供しています。
■資格等
□鍼灸師
□認定心理士
□介護予防運動指導員
□ピラティスリーダーシップコンセプトマットⅠⅡ修了
□(公)日本陸上競技連盟B級トレーナー
□医薬品登録販売者(未登録)

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