『自律神経の施術はシンプルである──迷走神経が教える“身体から整う”という真実』

当院においても、クライエントから「わたし自律神経失調症みたいなんです」と相談されることがよくあります。「なので自律神経を整えて」とも言われます。

やや乱暴な言い方ですが、猫も杓子も、治療者側からも「自律神経」といえばクライエントもなんとなく納得していますことがあります・・・。本章では当院における自律神経への施術方針の一部を説明してまいります。

 


自律神経の施術は実はシンプルである

・多くの人が「自律神経は難しい」「整え方がわからない」と感じている
・しかし本質はとてもシンプルで、
    “身体からの安全信号を増やせば、脳は勝手に整う”
・その鍵を握るのが 迷走神経であり
・ 鍼灸・温熱・呼吸などの施術で“身体から脳へ”のフィードバックを利用する療法

 

 

迷走神経の基礎:求心性線維が80%を占めるという事実

迷走神経は
脳 → 内臓に命令を出す線維(遠心性
内臓 → 脳へ情報を返す線維(求心性
があります。

そして実は、
迷走神経の約80%は求心性(内臓 → 脳)
これは「内臓の状態」が「心の状態」に大きく影響しているといえます。
心は、頭だけでなく“身体がつくるもの”といえます。

 

 

進化における迷走神経の発達:なぜ内臓由来の信号が重要なのか

・生物進化では「危険か安全か」を瞬時に判断する必要があった
・もっとも早く変化するのは「内臓の緊張」=生命維持に直結
・そのため、

 脳は内臓からの信号を最優先に処理する仕組みを発達させた
・迷走神経求心性が太く・多いのはその名残
・現代でも、
  ・「胃が固い」

  ・「腸が動かない」

  ・「呼吸が浅い」
→ これらは脳に“危険信号”として送られる

今日における迷走神経の意味合い:過剰ストレス社会での“安全スイッチ

・人間のストレスの大半は「思考」よりも「身体反応」
・迷走神経が抑圧される場面

  ・SNS・情報過多
  ・長時間の緊張姿勢
  ・他者評価や予期不安
  ・交感神経の慢性的亢進
・これにより「内臓が固まる」→「脳が危険モードになる」
・だからこそ、
内臓から迷走神経への安全信号を与えること
が今もっとも重要なセルフケア・施術の要点になります。

施術におけるプロセスと作用機序(鍼灸 × 温熱 × 体感)一例

1. ホットパック・手圧などで腹部を温め、刺激する

  • 内臓血流が上がり、消化管が“安全モード”へ

  • 迷走神経への求心性入力が増える

 2. 鍼灸刺激によるC線維刺激

  • 皮膚の微細刺激が脳幹(孤束核)へ直接伝わる

  • 防御反応が落ち、迷走神経が回復モードに入る

3. お腹が鳴る(蠕動運動の再開)

  • 内臓が動き始めたサイン

  • 迷走神経が「安全」を受け取った証拠

  • “治療が効き始めた瞬間”を誰でも理解できる指標です。

 4. 呼吸が深くなる・表情が和らぐ

  • 安全システム(腹側迷走神経)がオン

  • これは心理にも直結します

 

メンタル症状への影響:身体介入が心を変える理由

心理的には以下の変化が期待できます。

✔ 不安の低下

迷走神経が扁桃体の誤作動(過剰な危険検知)を抑える。

✔ 思考の静まり

DMN(反芻ネットワーク)の暴走が緩む。

✔ 過緊張の解除

筋緊張と内臓緊張は神経的に連動している。

✔ 自己感覚の回復(インタロセプション)

「お腹が動く」「呼吸が入る」という感覚が
“私は大丈夫だ”
という身体的安心のベースをつくる。

✔ トラウマ的な反応の緩和(ポリヴェーガル的理解)

凍りつき → 安全モード への移行は
身体を通じてしか実現できない

 

まとめ:内臓が動けば、心は動き出す

・自律神経の施術は難しく見えて、本質はシンプル

・身体が安全を感じると、脳は自然と整う

・「お腹が鳴る」という小さなサインは、
・身体があなたに伝えている大きな安心の合図


自律神経は、植物的神経ともいわれます。水と陽の光が当たれば成長するし、その逆はまた然りです。

内臓に水と陽の光をあげましょう。


参考文献
□自律神経の科学(瀧本築著、講談社ブルーバックス)
□脳の可塑性と神経生理学(養老孟司ほか編集、医学書院)
□心はどこにあるのか(ダミアン・ファーニング著、青土社)                         


Author:行方悟郎 Goro NAMEKATA 

 

当院には、自律神経の乱れ、抑うつ、パニック、不安、不眠、慢性的な疲労感、頭痛、首の痛みなど――
心と身体のバランスを崩し、仕事や学校を休みがちになったり、何とか日常を続けながらも、長いあいだ不調を抱えている方が多く来院されています。

 では、その「不調の原因」とは何でしょうか?ストレスでしょうか?仕事、家庭、人間関係…あるいは姿勢や生活習慣、慢性的な疲労や過緊張…? ――答えは一つのようで、一つではありません。
ご自身で「わかっている」と感じるときもあれば、「何が原因かわからないけれど、ただしんどい」ということも自然なことです。

 

当院では、鍼灸・整体施術、心理カウンセリング、ピラティスなどを通して、身体との対話、心との対話、そして人との対話を大切にしながら、少しずつ「本来の自分」に立ち返るお手伝いをしています。

 

私たちが信じていること――それは、身体は本来“治りたがっている”存在であるということ。

 自然のリズムと心身の声に耳を傾け、あなた自身の内に眠る“治る力”を、ここで一緒に呼び覚ましていきましょう。 


鍼灸師・認定心理士・ピラティスインストラクターとして、身体・心・自然の調和を探求し続けています。2013年より当地にて鍼灸院を開業。自律神経の不調やアスリートの身体ケアに携わる中で、対話と身体感覚の重要性を実感し、心理学やピラティスも統合。
現在はポリヴェーガル理論を軸にした施術と、「動く瞑想」としてのワンネスピラティスを実践中。すべての人が“自らの治癒力”に気づき、自分自身とつながる場を提供しています。


■資格等

□鍼灸師

□認定心理士

□介護予防運動指導員

□ピラティスリーダーシップコンセプトマットⅠⅡ修了

□(公)日本陸上競技連盟B級トレーナー

□医薬品登録販売者(未登録)